教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)



教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)
教養主義の没落―変わりゆくエリート学生文化 (中公新書)

商品カテゴリ:受験,教育,学習,英会話,資格取得
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本書のタイトルを目にして戸惑いを覚える向きも、決して少なくはないだろう。教養主義などと呼ばれる姿勢は、まさに「没落」して久しい。なにを今さら、と感じても当然だし、そもそも教養主義なることばを知らない読者もあまたいるはずだ。少々古めかしい本と思われても止むを得ないかもしれない。ところが、こうした印象とは裏腹に、本書はきわめてユニークで刺激的な文化論となっているのである。

教養主義とは、読書を通じて得た知識で、人格を磨いたり社会を改善していこうとする人生観のこと。大正期の旧制高校ではぐくまれた思潮で、戦後も1970年前後までは大学生の規範文化だった。本書はさまざまな文献や統計を素材に、教養主義の盛衰を実証していく。たとえば、勉強時間や書籍費、スポーツへの関心などについて教養主義の担い手たる帝大文学部生と他学部の学生を比較したり、学生の検挙率からマルクス主義の浸透を解読、または、大学生への読書調査をもとに、戦後、「世界」「中央公論」といった総合雑誌が読まれなくなっていくさまを提示する、といった具合である。こうした検証だけでも充分おもしろいが、「いったい教養主義とはなんだったのか」という考察にまで筆が及んでいるところが、なにより注目に値する。

著者によれば、教養主義を支えたのは、都市の気風よりも、むしろ農民的刻苦勉励の精神である。これも単なる印象ではなく、帝大文学部の学生は他学部にくらべて農村出身者の割合が高かったという。知識人として文化的生活を送ることへの憧れが背後にあったと考えられるのだ。ゆえに戦後、都市と農村の文化格差が消失し、学生がエリートでなくなったとき、教養も意味を失ったとする。さらに本書では、大学生の権威が失墜した不安や怒りを源泉に学園紛争が起こったという見方を示しているが、これもさまざまな資料にもとづき教養主義の斜陽が述べられたあとだけに、はっとするほどの説得力を持っている。

とはいえ、本書は単に実証的・論説的な書物ではない。あからさまに謳(うた)うことは避けていても、教養主義に対する愛惜が端々ににじみ出ており、それが骨太なメッセージとなって伝わってくるのだ。著者も述べているように、今後かつてのような教養主義が復活することはまずありえないだろう。しかし、文化がますます軽く、歯ごたえのない消費財となっていく時代、そのなかにいささか学ぶべきものがあると考えても決して的はずれではあるまい。(大滝浩太郎)



日本型教養「風」主義への鎮魂歌

かつて存在したという旧制高等学校的教養主義の発生と展開、そしてその没落を記すことにより、正に「引導を渡す」。正しく成仏させんとする試みが成功した一冊です。
 総合月刊誌『現代』等の廃刊の報道が続いているが、かつてあった総合月刊誌が必要とされる公共空間、定期購読することにより雑誌を支えた人々の生態、何を望み読者となったのか、岩波書店の『世界』の役割と刊行物、『世界』をリードした人々の個人史・成育史と『世界』にリードされた人々の群像等々まで踏み込んだに日本型教養「風」主義への鎮魂歌である。
 帝大における文科・文科大学の位置づけ、文科の学生の出身階層と彼らの前に立ちふさがった将来展望等々を、多数の統計資料を裏付けにしながら、各世代の文科出身者の叙述から、教養主義の母胎と限界を解き明かす。
 文科が決して「エリート学生」では無い逆説は、巧妙である。
 「人格の完成」との見果てぬ夢に灯火を見出した時代が確かに存在したかに思える。教養主義への愛憎の中、書籍と雑誌を仮想として必要とした時代の終わりの鐘を鳴らす一冊です。
 新たな時代の教養の指針は、今だ存在しない。しかし、それは喜ばしいことだろう。教養が必要とされるものならば、必ずや新たな指針は築かれるのだから。
エリートの没落

久々に“古き良き新書”という感じ。というより、ずばりテーマである教養主義の結晶
と言えるかもしれない。

本書は、戦前戦後の高等教育における教養主義の変遷を独自の視点で説く。
それは西洋文化の輸入に始まり、農村社会からの羨望をエンジンに一時代を築く。
そして社会経済の成熟とエリートの総サラリーマン化により、教養も学歴も
かび臭い権威に成り果てると、マルクス主義という新たなエンジンによって
別の方向へと走り出す。
エリートもマルクスも滅んだ以上、大学がレジャーランドとなるのは必然の結果
だったのだ。けして学生がバカになったのでも、社会が堕落したのでもない。

ただし、“教養”の無い技術偏重の学問では、思想も文化も成長性を失い、
社会は停滞する。ひょっとすると格差と新エリート層の台頭によって、大学の
中には新たな教養主義が生まれるのかもしれない。

驚きの考察?なぜ大学はレジャーランド化したのか

日本の教養主義(マルクス主義含む)が、都会へやってきた比較的貧しい階層の刻苦勉励主義に支えられた、(洗練された中央文化に対する)カウンターアタックだったという筆者の考察には驚くべきものがあります。 高度経済成長期、地方と都会の差が縮まるとともに、教養主義も没落した?。 恐らくそれは正しいのでしょう。 それに加えて、戦前まで日本以上の歴史と文化的多様性を誇るヨーロッパ的教養を範としていた日本が、その没落とともにアメリカ流の社会を目指したことも理由だろうと、私は思っています。 私は在米12年になりますが、最近の日本人の今すぐに結果、見返りを求めるメンタリティが(それがいい悪いは別にして)、驚くほどアメリカ人に似てきていることに驚かされることがあります。 日本流教養主義解体の牽引となった石原慎太郎、吉本隆明、ビートたけしについての考察なども鋭いものがあると思います。

私事になって恐縮ですが、教養主義的傾向の強い両親(しかもどちらも地方の教員)に育てられた私が過ごした90年代初頭の東京の大学はまさにレジャーランドでした。 その居心地の悪さと言えばあまり思い出したくもないことですが、折りにつけてあれはどうしてだったのだろう?と、考えることがよくありました。 そのもやもやとした霧を晴らしてくれる本でした。
私はまさに今は昔の教養主義的学生の典型だった!?


思想史としても興味深い本

旧制高校から戦後の大学まで1970年ごろまで生きつづける教養主義。
それは左翼とも密接に絡み、農村部出身のエリートの羨望でもあり、身の処しかたでもありました。また下町文化に対し山の手文化を築いたものでもありました。
著者はこれをフランスと比較したり、岩波書店と講談社を比較したり、戦前の学生の読む雑誌、戦後学生の読む雑誌、70年代以降の学生の読む雑誌を比較したり、文学部と法学部と経済学部の学生の比較をしたりしながら多彩に描いています。

また、教養主義の破壊のイデオローグとして、石原慎太郎、吉本龍明、ビートたけしを挙げ、結局、かつてエリートだった大学生が単なる労働者予備軍に大衆化してしまったことを基本原因とします。
この観点から大学紛争が捉え直されています。

思想史としてもなかなか面白く、一気に読める本です。

まさに現代の教養書

 あまりの面白さに一気に読み終えたが、教養主義の内実が露にされたことの爽快感とともに、何やら寂寞とした印象を残す。はてこれは何だろうかと暫し黙考してみるに、それは、かつての人文主義的教養主義者が無益な理想を追い求める姿と、今の自分の姿が二重写しになっているところだと気がついた。本書は、往時の教養主義文化を下支えしていたのが、都会人的な余裕のない田舎者の成り上がり精神であったことを解明しているが、それを現代の文脈に置き換えれば、さしずめ今流行りの格差社会論で言われる下層民的精神風土と酷似している。ということは、自分のような現在の若年教養主義者の精神風土は、フリーターのそれと大差ないことになろうか。自分が何者かにカテゴライズされる点では占いと同様であるとはいえ、占いにはまだ希望がある。しかし、現代の教養主義者には、もはやそうした希望は残されていない。
 著者は、本書の最終部で、往時の教養主義を培ってきた独特の人間関係や人的ネットワークのあり方に、これからの教養主義にとっての活路が開かれている可能性を示唆する。だが、往時の教養主義とそれを培ってきた対面的人格関係の間には、互いに互いの存立基盤を補強する相補的な関係が成立していたと考えられる。教養そのものが終焉し、ネットやケータイによって人間関係の様態が変質しつつある今日において、果たしてそうした活路の素地が本当に残されているのかと考えると、まったく暗澹たる気分に襲われる。きっと、本書のインパクトは、今の時代になおも教養への憧憬を抱いてしまった若い人々の方が大きく、その実存に対して甚大な揺さぶりをかけることになろう。その意味で、本書は、まさしく現代の「教養」書である。



中央公論新社
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